2018年3月7日水曜日

存続への二本の道筋

ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、上下)の学習 12

ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、上下)を読んでその抜き書きをしたり、感想をメモしたりしています。この記事では「第9章存続への二本の道筋」の出だしの部分について抜き書きをしてその感想をメモします。

1 環境問題解決の二つの道
 ここまでの章では、過去の六つの社会がみずから引き起こした、もしくは運悪く巻き込まれた環境問題の解決に失敗し、結果として崩壊に至った過程について述べた。イースター島、ピトケアン島、ヘンダーソン島、アナサジ族、古典期低地マヤ、ノルウェー領グリーンランド。
しかし、当然ながら、過去のすべての社会が環境破壊に行き着いたわけではない。アイスランド人は、困難な環境下で千百年以上生き延びてきたし、ほかの多くの社会も、数千年にわたって存続している。そういう成功談もまた、教訓を、そして希望や示唆を与えてくれる。
それらの成功談から見て、環境問題の解決には、ふたつの対照的な方式があるようだ。このふたつを、ボトムアップ(下から上へ)方式とトップダウン(上から下へ)方式と呼ぶことにしよう。

この認識は、おもに、異なる社会的変遷をたどった異なる大きさの太平洋上の島々に関する考古学者パトリック・カーチの研究から派生したものだ。ごく小さなティコピア島(面積約五平方キロ)では、三千年を経た今も居住生活が維持されている。中程度の大きさのマンガイア島(約七十平方キロ)は、イースター島と似た経路をたどり、森林乱伐という誘因によって崩壊した。そして、三つの島のなかで最大のトンガ(約七百五十平方キロ)は、三千二百年にわたって、どうにか持続的に機能している。なぜ、小さい島と大きい島が環境問題の制御に成功を収めたのに対し、中程度の大きさの島は失敗したのだろうか? カーチの主張によれば、小さい島と大きい島は正反対の方式を採って成功したが、中程度の大きさの島はどちらの方式も実行できなかったのだという。

 小さい島もしくは陸地を占有する小規模の社会は、環境管理にボトムアップ方式を採ることができる。領土が小さいので、住民すべてが島全体の事情に通じ、島内のあらゆる開発に影響されるという自覚があって、帰属意識や共通の利益をほかの住民と分かち合っている。したがって誰もが、隣人とともに妥当な環境対策を採れば、恩恵を受けられることを知っている。これがボトムアップ方式であり、そこでは人々が自分たちの問題の解決に一致協力して取り組む。

 これと正反対の方式が、ポリネシアのトンガなど、中央集権的な政治体制を採る大きな社会に適したトップダウン方式だ。トンガはあまりにも広大すぎて、群島全体はおろか、大きな島々のうちのひとつでさえ、個々の農民が把握することはむずかしい。群島内の遠く離れた場所で何か問題が起こって、それが農民の生活に破滅をもたらしうるとしても、初期段階で農民が知るすべはない。たとえそれを知った場合でも、お決まりの「われ関せず」の姿勢でかたづけてしまう可能性もある。自分にとってはさして重大ではない、あるいはその影響が及ぶのは遠い未来だ、と考えるからだ。また逆に、自分の地域に問題(例えば森林乱伐)が生じても、別の地域に樹木はたくさんあると決め込んで、おざなりな態度をとるかもしれない。実際にどうなのかは知らないままに。 それでも、

トンガは今なお、ひとりの最高首長、すなわち国王のもとに中央集権国家が成り立つほどの大きさを誇っている。その国王は、地方の農民たちとは違って、群島全体を見渡すことができる。また、農民たちとは違って、群島全体の長期的な利益に配慮すべき動機がある。なぜなら、国王はみずからの富を群島全体から得るのだし、長年この島を治めてきた支配者たちの列に加わったからには、自分の子孫によるトンガの末永い支配を望むだろうからだ。したがって、国王や中央政府は、環境資源をトップダウン方式で管理し、臣民全員に、彼ら自身では系統的に処理できなくても、長い目で見て彼らのためになるような指示を与える。

 成功への二本の対照的な道筋を説明するため、次に、ボトムアップ方式が効果を発揮したふたつの小規模社会(ニューギニア高地とティコピア島)と、トップダウン方式が効果を発揮したひとつの大規模社会(現在では世界第十位の人口を有する国となった日本の、江戸時代)の話を手短に紹介しよう。三つの例すべてにおいて、対処を要した環境問題は、森林乱伐、浸食、そして地力の劣化だった。とはいえ、過去の多くの社会が、水資源や鳥獣及び魚介類の乱獲という問題を解決するために、同様の方式を採用してきた。

文明崩壊事例と環境問題解決事例 過去社会

2 感想
この図書では結論として環境問題を解決する道筋は二つあり、一つはボトムアップ方式で小地域で可能であり、もう一つはトップダウン方式で大地域で可能であるとしています。つまり社会の空間の広さによってコミュニケーションのありかたが異なり、そのために社会崩壊要因に対する方策が異なる、あるいは生き延び方が異なることが示されています。
町内会などでのボトムアップ方式の有効性と国家レベルでのトップダウン方式の有効性は、常日頃感じているところです。

ボトムアップ方式での環境問題解決社会の事例としてニューギニア高地とティコピア島が、トップダウン方式の事例として江戸時代日本が述べられているので、それぞれ別記事で学習することにします。

つづく

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